嗅覚と季節

もう一年以上もマスクをする生活をしている。

外気に漂うウイルスや風邪といった病気の元を不織布のこの薄い一枚で防いでくれていたおかげでこの一年は風邪をひかずに過ごすことが出来た一方で匂いのない日々を送ってきたという思いがある。

視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚の五感のうち私にとって嗅覚とは季節の移ろいを感じ取る機能として大きな役割を果たしていたことを知った。

春先の少し埃っぽい土の匂い、葉桜の頃の通りがかりに薫るかすかな桜餅のような香り、芽吹きの頃の植物の青臭い匂い(苦手ではあるが・・・)、夕立の後の地にたっぷりと水分を含んだ雨の匂い。

肌に触れる風で季節の変わり目を感じることができるが、その季節の盛りを実感するのは嗅覚だった。

失われた五感の機能を補おうとしているのだろうか、以前にも増して視覚と味覚で季節を感じ取ろうとしている。

時折、季節の花を部屋へ飾り、旬の野菜や果物を多めに買うようになった。

スーパーに並ぶ色鮮やかな野菜や果物を目にしてその季節の到来を感じ取ろうとしていた。

梅雨明けの便りにひまわりの花を飾りたくなった。

先日、1年と少し勤めた派遣先を退職した際に、ひまわりの花束をいただいた。

会社から帰宅までの間にすっかりしんなりとしてしまったが帰宅後すぐに水切りをすると息を吹き返した。日々、このあまりの夏の暑さに辟易していまっているが、いずれ過ぎ去ってしまう季節を少しでも私の五感で受け止めてそして記憶に留めておきたいと思っている。